――福田進一、ライナー・キュッヒルという2大巨匠によるアルバム「デュオ・コンチェルタンテ」の録音ストーリー、じつに興味深く拝聴しました。ホール周辺の付帯施設をすべて借り切ったというお話にはびっくりしました。
録音会場となったさくらホールは、浦和市街から車で20分ほど走るところにあります。そこで、福田さんとキュッヒルさんには浦和のホテルに泊まってもらい、私がホテルの駐車場に自分の車を置いて、毎日、2人を送迎するという形になりました。
――録音は毎日深夜まで及ぶような状況だったのですか?
2人の演奏の素晴らしさは言うまでもありませんが、共にレコーディングは手慣れたものなので、仕事はじつにスムーズに運びました。また、これはわたしの持論なのですが、優秀な演奏家ほど、仕事が終わってからダラダラしない。サッと片づけて、風のように去る。世界中でいろいろな人と仕事をしてきましたが、仕事ができる人は例外なく撤収が素早いです。これは演奏家に限ったことではありません。
キュッヒル氏は、どちらかと言うと仕事のあとは1人で過ごしたいというタイプの人なので、期間中、わたしは福田さんと夕食を共にしていました。その時に、福田さんからパリ留学時代の話などを聞き、即座に『これを本にまとめよう』と思い立ったのです。
――白柳さんは、音楽プロデュースやディレクションのほかに、編集もやるのですか?
わたしは32年もの間、学研という出版社にいまして、そこで書籍や雑誌の編集企画・制作とレコードやCD、DVDなどの音楽ソフトの企画・制作を行なっていました。紙メディアと音楽メディア両方の仕事をしていたわけです。さらに、ナクソスではデジタル関連の仕事ができたので、わたしにとってはとても恵まれた仕事環境にいたと思います。
それはともかく、福田さんの話には、野平一郎さんや工藤重典さん、渡辺香津美といった音楽家、平野啓一郎さん、逢坂剛さんなどの作家、さらには、料理家の奥田正行さんなど、そうそうたる方々が登場するのです。まずは、このような方々との対談を本の中核に置いて、さらに、福田さんの半生記を載せる形で本を作りたいと考えました。
福田進一さんの盟友で、フルート奏者の工藤重典氏
――なるほど、かなり中身の濃いものになりそうですね。
当初、福田さんの半生と対談、両方ともわたし自身が取材して書くつもりだったのですが、福田さんの文章を見て、あまりの上手さに仰天しました。よく、素晴らしい音楽家や俳優が見事な絵画を描く例など数多くありますが、これと同じように、一芸に秀でた人が一流の文章家である例もよくあります。福田さんの文章は抑揚やリズム感などが音楽的で、とても魅力的なものでした。
そこで、福田さんの半世紀はご自身に執筆をお願いして、わたしは対談の取材に専念することとなりました。
――浦和の夜の食事会から生まれた福田進一さん初の書き下ろし書籍!つづきは次回にお願いします。
ご自身がギター愛好家でもある作家の逢坂剛氏
(BRAVO Café 番組ディレクター)